諏訪森大
2019年10月22~28日

訪問先

カルフォルニア州:
 VAS(Valley Agricultural Software)社
 World Wide Sires社 ※
ウィスコンシン州:
 ABS global社 ※
 ウィスコンシン大学・Dairyland Initiativeワークショップ(2日間)
(※精液会社)

概要

  • 弊社ではアメリカZoetis社にサンプルを送りゲノム検査(CLARIFIDE)を実施しています。今回はVAS社と精液会社を訪問し牛群管理ソフトDairy Comp 305とゲノムデータの連動やゲノム情報を活用したメイティングプログラムについてディスカッションしてきました。
  • Dairyland Initiativeはウィスコンシン大学の乳牛に関する情報発信サービスで、特に牛舎デザインについては内容が充実しています。毎年、様々なテーマを設けてワークショップ(研修)を開催しているのですが今回は9月に行われた『AMSにおける牛舎デザイン』に関するワークショップに参加してきました。

ゲノム解析

ゲノム解析とは、牛の遺伝情報(ゲノム)を読み取って効率的に遺伝改良に活かそうという技術です。血液や耳切片からDNAを抽出して検査に用います。DNAから遺伝情報を全て読み取ることは莫大な時間と費用がかかるので、特徴的な遺伝的構造の1つであるスニップ(SNP: single nucleotide polymorphism)のパターンを調べることで短時間・安価な検査が可能になっています(これをSNP検査という)。

検査した牛のスニップ情報とアメリカのデータベース(遺伝情報、血統、乳検データ、繁殖成績など)から統計的にその牛の遺伝的評価を導き出すのがゲノム解析です(→ゲノム評価値)。よって検査頭数や乳検データなどが加わりデータベースが大きくなるとゲノム評価値も変化します。検査した牛のスニップ情報が変わる事はないので一度検査すれば常に最新のゲノム評価値を得る事ができます。

わずかなDNAサンプルがあれば、実際にその子牛のもつ遺伝能力を評価することが可能なのです(生後間もない子牛でも血統からの推測の遺伝的評価でなくて)。

アメリカの育成牛のゲノム評価値の信頼度は約70%と言われています。従来の血統情報のみからの評価の信頼度は約30%なのでその差は歴然です。ゲノム評価値の信頼度はデータベースの大きさによるので、250万頭以上のデータを保有する北米には敵いません。弊社ではその信頼度と実績からアメリカにサンプルを送り、ゲノム解析を実施しています。

アメリカでは約10年前から急速にゲノム解析が普及しています。当初は種雄牛がゲノム検査されていましたが、現在では酪農牧場が自分の育成牛をゲノム検査してより均一的な牛群作りをしています。近年アメリカでは低乳価で離農が進んでいますが、乳量は増加傾向にあり、その理由の一つはここにもあると思います。現時点の牛群の産乳能力を引き出すことはもちろん大事ですが、次世代の牛群(育成牛)を積極的に牧場の理想とする方向に改良していかなければアメリカの改良スピードからどんどん遅れをとってしまうと感じています。私たちも育成牛のゲノム評価値を知り、遺伝的に優秀な牛には性判別精液やいつもより高価な精液を使用し、逆に能力の低い牛には和牛を授精して後継牛は残さないといった選択と集中をする事で改良スピードを速めることができると考えています。前述の通り、一度検査すれば生涯にわたってゲノム評価値を得ることができるので経産牛の淘汰決定にも活かすことができます。

Dairy Comp 305にゲノムデータを取り込むと実際の乳量や繁殖成績(牧場の実績)とゲノム評価値の相関をモニタリングできるので改良方針や淘汰決定の精度が増します。

アメリカで授精されている種の約70%(2017年時点)はゲノム検査されたヤングブルです。ヤングブルは日本のフィールド種に相当するので娘牛のデータがまだありません。しかし、ゲノム評価値の信頼度は高いので最も改良が進んでいるヤングブルが積極的に使用されています。

雌牛についても遺伝能力をランキングする手段としてゲノム評価値は“より完璧な情報”として推奨されていました。

ゲノム評価値を利用したメイティングでは、従来は必要としていた体型審査(実際に牛を観て点数化する作業)が必須ではなくなります。体型審査のために牧場訪問する時間と費用がもったいないと言われた事には驚きました。

大きい牛は乳量が多いかもしれませんがエサ代が嵩み、牧場内での作業性は低下します。去年、カルフォルニア大学のVMTRC(詳細は2018年レポート参照)の検診に同行していた際にスタンチョンに並ぶ中で体高のとびでた牛について「この牛の体高は高いと思うか?」と一人の獣医師に聞かれました。私は“普通”ではないかと答えましたが、彼は「日本の牛はまだ大きいのだね」と言っていました。アメリカでは体格を抑えながらも生産性や健康性を損なわない効率的な牛群を作っていると感じました。それがゲノム解析によって子牛の段階で把握できることは魅力的だと思います。

また授精戦略を考える上でハプロタイプが重要という話もありました。ハプロタイプとは繁殖低下に関する特定の遺伝子構成のことでホルスタインでは6タイプが判明しています(2019現在)。同じタイプのハプロタイプを両親から引き継ぐと早期胚死滅などにより受胎成績が低下します。種雄牛のハプロタイプはブルブックに記載されていますが、雌牛についてはゲノム検査する必要があります。

メイティングを行う頻度はゲノム評価値が更新されるタイミングにあわせて年3回が一般的との事でした。これは常に最新の評価値を利用し、最善の選択を行うためです。

今回の訪米では、ゲノム解析とそれに関連した事業が一般化されていることにゲノム解析の進歩を感じました。

AMS

AMSはAutomated Milking System のことでボックスタイプのロボット搾乳機を取り入れたシステムのことをいいます。ロボットロータリーパーラーはAMR(Automated Milking Rotary)と区別されます。

今回のワークショップではロボット搾乳機の性能や評価については触れていません。ロボット搾乳機はあくまで牛乳を搾乳するツールなのでAMSにおいて最大限に牛の産乳能力を引き出すにはマネージメントが重要であり、AMSがうまく機能しない理由の多くもここにあるからです。

マネージメントは牛群の構成、ペン割、ベッド管理と堆肥処理、フェッチカウ(搾られるべきだが、搾乳されていない牛)や弱い牛への対処、牛舎換気、エサの管理など多岐に渡ります。具体的には社会的弱者の初産ペンを設けるには何頭規模の牛群が適すのか、病畜やAIする牛のペンはどこに設けるべきか、分娩房とロボット搾乳機の位置関係、人と牛の動線はどうなるか、将来的に増築はあり得るのかといった複雑なデザインが求められます。

ワークショップなのでレクチャーだけでなく8グループに分かれた各グループに割り当てられた模擬牛舎や換気システムを評価しました。評価内容はグループごとに発表し、様々なデザイン共有して理解を深めました。ロボット搾乳におけるシステムデザインに限定した講義は少ないので充実した2日間となりました。

アメリカの酪農と言っても西海岸(例:カリフォルニア)と東海岸(例:ウィスコンシン)ではそのシステムが大きく異なります。日本の酪農に活かせる技術をそれぞれの地域の良いところから参考にして今後も現場に還元していきたいと思います。

Valley Agricultural Software社
牛群管理ソフトDairyComp305を提供する
他にもパーラーや給餌マネージメントに関するソフトも開発している
(photo by Google)

World Wide Sires社
精液会社Select SiresおよびAccelerated Geneticsの国際マーケットを担う会社
WMS(World Wide Mating Service)というメイティングプログラムを提供する
(photo by Google)

ABS Global社
GMSというメイティングプログラムを提供する
(photo by Google)

Dairyland Initiativeワークショップ(会場内の様子)
8人×8グループに分かれAMSにおける牛舎レイアウトや換気システムの評価を行った
参加者は生産者、獣医師、乳機器メーカーと様々であった

ウィスコンシン州マディソン(上空)
畑が広がる中に牧場や住宅が点在している
湖が多い地域でところどころに湿地帯もみられる

ウィスコンシン州マディソン
マディソンでは毎年、ワールドデイリーエキスポが開催される
当時は開催直前だったために急ピッチで会場準備をしていた

ウィスコンシン州マディソン
酪農が盛んなウィスコンシン州の形をモチーフにしたTシャツ、チーズの穴は無数にある湖をイメージ??
「SMELL OUR DAIRY AIR」